「姑獲鳥の夏」/京極夏彦(講談社ノベルズ・文庫)

 言わずもがな、妖怪小説家・京極夏彦の衝撃のデビュー作


 手慰みに書いた小説を講談社に持ち込んで、それが本になった…というのは有名な話。
 更に、当初は表紙見返しの著者紹介欄が空白になっており、「謎の作家」とも言われました。
 実際にはまだこの頃会社員であったため、出版社側が気を利かせて何も情報を公開しなかったというのが真相のようですが。
 ノベルズを本屋で見たときのあの衝撃は…見た方ならご理解いただけるでしょう。その分厚さはまさに「弁当箱」か、はたまた「辞書」。
 しかも第二作「魍魎の箱」はそれを上回る分厚さ。さぞ製本の方は苦労なさったことだと推察いたします。

 ともあれ、この作品。
 その分厚さもさることながら、内容はといえば…もう超一級・極上のミステリ。
 大抵「歴史ミステリ」などに類するミステリといえば、小説中で起こった殺人事件よりも歴史の謎解きのほうに重きがおかれ、事件の動機やトリックなどがこじつけっぽかったりするものですが…これは違う。
 京極堂の長弁舌の中に、事件解決の糸口が必ずある。
 そしてその長弁舌は、複雑に絡み合ったかに見える個々の事件と事例を両断する刃ともなる。
 それを「憑き物落とし」という。
 「妄想」「幻惑」と言う妖怪を、「言霊」の力でただの一つの「現象」に変えてしまう。
 奇妙に見える現象も「名」を付けることによって、正体不明の化け物から、名のある一つの「妖怪」にする。「妖怪」になったソレは、もう正体不明のものではなく、誰もが共通の名で呼べる、共通の現象となってしまう。
 「名」が「呪」であるとはそういうことである。「名」をつけることによってそれは「その名のものであるという呪」をかけられてしまうのだ。
 京極堂はその手法で、事件に巻き込まれた人たちの眼前から、迷妄の霧を取り払い、隠された真実を白日のもとに曝け出すのだ。そのクライマックスは圧巻の一言に尽きる。
 宗教、民俗学、古典文学、医学、歴史、心理学…などなど、実に多彩な雑学が盛りだくさんなのも魅力の一つ。


 さて、このたびこのデビュー作が映画になるとのこと。
 この作品が発表された直後にもその話や噂は方々で耳にしたのですが、最終的には誰もが「映像化は無理だろう…と思っていたはずです。
 この話の核となるある場面を映像でやってしまったら…そこで話は終わりになるはずですから。
 そういうこともあって、京極先生自身、もとは漫画として考えていたこの話を、小説と言う形に直したそうですからね。
 レトリック上のトリック…これがこの作品の醍醐味です。
 また、そのあまりに長大な話&京極堂の長い話を、一体どう表現するのか、と言う問題もありましたし、また、キャストが難しい話でもありましょう。そういったこともあって、映像化の噂もそのうち消えていったのでした。

 それが十年ほど経ったこの時期に再浮上したのには…どんな理由があるのでしょうね?
 私自身は「京極先生もそろそろほとぼりが冷めたと思ったのかな?」と思いましたが。
 なにせ、発表直後の反響が大きく、いえ、大きすぎ、ことに同人界では空前の本格ミステリブームを巻き起こし、雨後の筍のようにサークル数が爆発的に増えたのでした。
 そりゃあ、映像化する話が持ち上がっても…キャストを選ぶ段階で、人それぞれのイメージの違いで賛否両論出たことでしょう。それが十年経って…落ち着いてきたからこそ、映像化の話がでたのではないか?と私は思うのですが、ちょっとうがちすぎでしょうか?

 ともあれ、映画を見る前に、是非原作をご一読ください。
 その面白さは「ベストセラーに名作なし」とベストセラー本に背を向け続けてきたこの私が、保証いたします。

 多才な先生のこと。
 イラスト描きに本の装丁・デザインと…来る仕事拒まずなのはいいけれども、そろそろ続きも出してくださいよ!


映像で見たい方は
是非こちらを!
それにしても、すごいこだわり方だ…。



姑獲鳥(うぶめ)の夏

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この記事へのコメント

まりま
2006年04月17日 23:08
TBありがとうございました!
こちらからも返させて頂きました(^^)

本を沢山読まれていらっしゃるんですね。
しかも「おっv」と心惹かれるものばかり!
(記事違いで申し訳ないのですが、そう
世阿弥といえば木原さんですよねっ)
少しづつ読ませて頂きたいと思いますー♪

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