「心では重すぎる」/大沢在昌(光文社 カッパノベルズ・文春文庫)

 多作な作家である。ハードボイルドの旗手。「新宿鮫」は映画・ドラマ化され、大ヒット。
 「天使の牙」も先ごろ映画になったので、ご存知の方も多いだろう。
 しかしデビューしてから長い間「万年初版作家」だったという。今では信じられないが。
 シリーズ物も多い。その数多いシリーズ物の原点が「佐久間公」シリーズである。

 佐久間公は、筆者も度々口にするように「等身大のヒーロー」である。
 特別な力や能力があるわけではない。ただ、筆者と同じ年齢を重ね成長してゆくヒーローだ。
 佐久間公の初出は1979年の「感傷の街角」(角川文庫)。
 その後短編・「漂泊の街角」(同)、長編・「標的走路」(文春ネスコ)「追跡者の血統」(角川文庫)「雪蛍」(講談社文庫)「心では重すぎる」と続いてゆく。(カッコ内は、現在入手可能な出版社のもの)
 「追跡者」から「雪蛍」までは長いブランクがある。
 その間佐久間公は時をとめることなく歳を経て来た。
 結婚、妻との死別、そして親友・沢辺の資金協力する薬物中毒者更正施設「セイル・オフ」の顧問就任。「追跡者」から「雪蛍」までの約十年の間に、それだけのことがあった。

 この作品で興味深かったのは、少年週刊漫画雑誌で連載を抱える超人気漫画家の実情が赤裸々に描かれていることだ。
 この作品の中の漫画家も、デビュー作が連載になり、アニメ化もされ、大ヒット。しかしその後は連載をやめるにもやめられず、事務所内のいざこざもあり、人気投票一位のまま連載を終え、その後の作品は鳴かず飛ばず。いつの間にかその消息さえ掴めなくなってしまっていた。
 その人気作家の原画を、闇のマーケットで入手したという資産家の男。
 今回の佐久間公への依頼……それは、かつて少年漫画誌で一世を風靡したその某漫画家の、その後の消息と行方を調査してほしいというものだった。
 資産家の男が依頼する漫画家の行方と、公が顧問を勤める「セイル・オフ」に入所している少年の心を支配しつづける存在である、ある「美少女」の行方を、公は探す。
 そして彼は作家のデビュー当時を知る編集者やアシスタントなどに面会し、多忙を極め苦悩に満ちた人気漫画家の生活を知る。
 漫画家側の「他の作品が描きたい」という意向と、編集社側の「他の作品が今以上にヒットするとは限らない。ならばこの作品で才能を使い切れ」という思惑。
 読者の方の何人かは「あの編集社のことだろう」と思い当たる人もいるだろう。
 そう「あの」編集社の作家で2作目以降が当たった漫画家は数えるほどだ。
 多くの漫画家が、2作目以降は他の雑誌に転属し、あるいは消えていった。
 連載打ち切りの恐怖、人気投票のプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、心と体力と才能を削り、続けられる連載。「小説」であるということで話八割に聞くとしても、本当にシビアな世界である。その単行本も、数年後には読み捨てられ、古書店の棚に溢れんばかりに並べられる運命であるのに。

 複雑に絡み合う人間関係と、噂と、事実。
 依頼のためだけではなく、自らが「知る」ことを貪欲に欲し、彼は動く。
 歩き、訊き、考え、知る。
 初出当時自らもまた「若者」だった公が、失踪する若者たちと同じ目線で考え、行動していたのに対し、歳を重ねた分、見えなくなってきた風俗や「若者」たちの行動原理に対して、「大人」の目で真っ向から見据えようとしている。
 逃げることなく、思考停止もせず。
 そういう「大人」にならなければ、今の「子供」たち「若者」たちとの深い溝は埋められないのではないだろうか…ふとそう思った。

(済みません。今回なんか消化不良っぽいですね。でも、漫画ギョーカイに興味がある方は是非読んでみてください)

心では重すぎる

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  • 大沢在昌【心では重すぎる】

    Excerpt:   心では重すぎる(上)(下)「佐久間公」を主人公にするシリーズの後半にあたる作品。本作では一人称を「僕」から「私」に変えて私立探偵佐久間公が帰ってきた、、、とは言ったものの以前のシリーズを殆ど読んだ.. Weblog: RentedHouse racked: 2006-02-06 03:09