「オイディプスの刃」/赤江瀑(角川文庫)

 刀と香水、そして京都…この千年の古都を舞台にした作品が多い作者の、これはまさに独壇場とも言える作品。
 「オイディプス」とは、ギリシャ悲劇の奇才・ソポクレスが書いた戯曲「オイディプス王」の主人公の名である。精神医学の分野では「エディプス」とされ、「エディプスコンプレックス」とは、父親を憎み、母親に愛着を抱く心理をさす。
 戯曲の中で、オイディプスは実父と知らずに先王を殺し、実母と知らずに彼女を妻にする。やがて暴かれるおぞましい真実…彼は自ら両目を抉って、放浪の旅に出る。
 夏の日に起こった一家の惨劇。妖美な一振りの刀に刺し貫かれた若き研師と、その後を追った人妻、そして自ら割腹自殺をして果てたその夫。
 遺された三人の息子たちは、事件の後、それぞれ全く違う道を歩み始める。
 引き離された直後、家出したまま行方がしれない弟・剛生と、同じ修羅の道を歩もうと夜の世界に身を投じる主人公・大迫駿介。それとは正反対に、愛する母の面影を求めるように同じ「香り」の道に進む長男・明彦。
 数年後、そんな彼らの前に、弟・剛生としか思えない、しかし全く別人の顔を持つ、謎の男が現れた。
 雑誌に投稿された謎めいた詩に、駿介は剛生の匂いを嗅ぐ。そしてまた明彦は、自分が発表寸前だったものと全く同じネーミング、ノートの香水を発表した男に、剛生の匂いを嗅ぐ。
 彼は果たして剛生なのか? そしてあの夏の日の惨劇の真相は?
 血を呼ぶ白刃と、ラヴェンダーの香り。
 全編に漂う濃密な血と死の香りに、陶然と酔いしれて欲しい。
オイディプスの刃

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