「腐りゆく天使」/夢枕獏(文春文庫)

 「あ、この人ビョーキ」と思ったのだそうだ、筆者夢枕獏氏は…萩原朔太郎の詩を初めて読んだときに。
 私も思った。「あ、この人ビョーキ…いってもうてるわ(嘆息)」と。
 「月に吠える」、「青猫」…どれをとっても、常人の目では捕らえきれない、まさに「詩人の目と感性」を持った人間にのみ聞こえる「天の声」…もしくは「悪魔の囁き」をつむぐ人間の言葉だと。
 その雰囲気は…小説で言えば江戸川乱歩の作風に似ていると思うのは、私だけだろうか?

 萩原朔太郎はとある人妻に横恋慕していたことがあるのだそうだ。
 いや、度々逢ってもいたから…今で言うところの『不倫』だ。そのときの心情を切々と詩に書き、手紙に書き…多数残しているらしい。
 この小説の主人公の一人はその『萩原朔太郎』である。
 夢枕獏氏が作中に実在の人物を登場させる手法は…私が知る限り、これで5度目か?
 釈尊(ゴーダマ・シッダールタ)、空海、安倍晴明、宮沢賢治、そして萩原朔太郎。
 いずれも氏独自の感性と想像力で、ある意味ユニークな人物像に仕立ててくれている。
 更に今回は仮名遣いや文章まで「朔太郎」味に仕上げてくれているし、詩や手紙などもふんだんにちりばめられている。章題も朔太郎の詩のタイトルだ。

 そして一つだけネタばらしを許してもらえるならば、この小説の主人公は一人ではないと言うことだ。
 主人公は他に二人いる。彼らの独白がほぼ同時進行的に語られる。
 そして彼らが一つの場所に集結したとき…物語は思わぬ方向へ展開する。
 萩原朔太郎が好きでも、知らなくても、とにかくご一読あれ。


腐りゆく天使

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