「魔術はささやく」/宮部みゆき(新潮文庫)

 かつて高村薫はミステリ界の「女王」と呼ばれ、宮部みゆきは「姫」と呼ばれた。
 そしてこの二人が日本推理サスペンス大賞にノミネートされたとき、賞をもぎ取ったのは宮部のこの作品「魔術はささやく」である。


 骨太なストーリーと、緻密な人物描写でしられる「女王」高村の作品に対し、「姫」宮部の作品は…いや、二人の作風の比較ではなく、宮部のミステリ界の中での作風の違いと言うものを論ずるべきだろう。
 宮部のミステリは「違う」のだ
 何がって? 作品中の人物一人一人の描き方、扱い方が普通のミステリとは違うのだ。

 この話の主人公は一人の少年。
 宮部の作品には10代の少年がよく出てくるが…そこはそれ、ショタ好みのお姉さま方にはこれもまたたまらない魅力の一つ(笑)。
 それはさておき、宮部の作品の最大の魅力は人物描写のたくみさにある。

 父の公金横領・蒸発の為に故郷でつらい日々を過ごしてきた少年・日下守。
 彼は母を亡くし、数ヶ月前に東京の伯母のもとに引き取られたばかりだった。
 その先で、タクシー運転手である伯父が事故を起こしてしまう。
 相手は若い女性。しかしこの女性、車の前に自ら飛び出してきたようなのだ。
 やがて家にかかってくる一本の電話。それをきっかけに守は、事故死した女性たちの身辺を探り始める。彼にしかない「特技」を使って。

 宮部みゆきの作品は、ミステリであってミステリではない。
 そう、宮部の作品は違うのだ。
 ただの推理小説とは違うのだ。根本的に。
 無造作に人が殺され,その謎と犯人を推理するだけのミステリではない。
 泣くのだ。主人公の心の傷や痛みを共有し。
 泣くのだ。殺された者の無念を知って。
 泣くのだ。犯人と目される人物の、遣り切れない心中を知って。
 そして、更に泣くのだ。
 最悪の悲劇の中に、希望のかけらを見出すことが出来た幸せに。
 こんなミステリを、そしてミステリ書きを、私はほかに知らない
 私はこの作品中、3回泣いた。
 あなたは何回泣くことができるだろうか?

魔術はささやく

"「魔術はささやく」/宮部みゆき(新潮文庫)" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント